「怪なる瞳が、これまでへの答え。」西パプア遠征 (淡水編)

「いつか」が突然、やって来た。

次の遠征先を探していると、パプアンバスが釣りたかったことを唐突に想い出した。

気がつけば、その名前を知ってから15年が経った。

当時、手に取った一冊の本

釣り竿を咥えた青年が持つパプアンバスは鋼を思わす鱗を纏って光を反射し、身柄を確保されてさえ、堂々とした態度でカメラのレンズを睨みつけていた。

これまで海外に10回ほど釣りに行ったものの、パプアンバスを一度も狙いに行ったことはなかったので、憧れは諦めに変わったと思っていた。

いや、歳を取るうえでそっちの方が都合はいいので、そう思い込んだに違いない。

そんなことを考えていると、大人になりつつある自分を一度、否定してみたくなった。

……ということでGWの遠征先は決まった。

パプアンバスというからにはパプアと呼ばれる土地で釣ってみたかった。

田山テスターが詳しかったので、タックルなどは言われるままに準備した。

ロッドは6フィート前後でベイトリール、ラインはPE8号を巻けるだけ。

現地での予約をしていると出発日が2か月前に迫ってきたが、時間のない呼びかけにもかかわらず、2人の友人が応えてくれた。

インドネシア・西パプア州(以下、西パプア)までは、日本から飛行機を3回乗り継いだ。

これまで行った場所の中でも南米に次いで長い移動だった。

空港に降り立つとガイドから、更に6時間もの間、船で移動すると告げられる。

移動だけで丸二日。

みんな釣り糸よりも先に頭を垂れた。

目的地はきっとまだ見ぬ秘境で爆釣に違いない。

悠久の時を波に侵されて断崖となった海を突っ切り、飛沫を上げて船は進む。

目の前を流れていく絶景も、心に染み渡ったあとはなんてことのない景色となるように、夢や憧れもまた見飽きれば……などと考えていると、砂浜に不自然に作られた無機質な埠頭が見えてきた。

島に着いて、いの一番にガイドがスターリンクのアンテナを取り付け始めた。

ガスなし、水道なし、トイレも風呂も雨水のこの島で、ネットだけは快適に使えるらしい。

あまりにもちぐはぐな時代の流れに、もう身を任せるしかない。

それよりも僕は、不快な音を立てて耳元を飛ぶ蚊から身を守る蚊帳(モスキートネット)が欲しかった。

案の定、蚊の猛攻に寝付けず迎えた翌朝。

2艇に別れて釣りへと出かける。

まずはモンキステスターでもある尾後君と一緒の船に乗った。

尾後君は移動の疲れや環境の変化も災いして、体調があまり良くないらしい。

ボートが川を遡上していく間、「釣りが始まればきっとよくなるよ」と根拠のない励ましを彼にかける。

スピードが緩まり、ボートマンが「キャスト!」と一言。

いよいよ釣りが始まった。

釣りはボートを前進させながら岸際の倒木やブッシュにキャストして隠れている魚を狙っていく方法だった。

この日は上流で雨が降ったせいで川が濁り、魚は障害物の近くでじっとしているらしい。

始めてすぐに岸際の倒木へと投げたペンシルに強烈なバイトがあって竿が絞り込まれる。

魚は倒木を離れてボートへと向かってきたので少し安心したが、沈んだ障害物があるかもしれないので気が抜けない。

ドラグを締め直して船際で魚をいなすと見えたのは銀色の魚体。

バラマンディかと思ったけど違った。

ロウニンアジの小さいやつだ。

「幸先いいですね!」と話す尾後君も魚を見て少し元気が出たようだ。

川を遡上しながら目ぼしいポイントを打っていくが後が続かない。

時間が経つと上げ潮でみるみるうちに水位が上がってきた。

こうなると魚はマングローブの奥に入ってしまうらしい。

ルアーを投げ込めない場所で響く捕食音を何度か聞いて悔しい想いをした。

昼食はワイルドに魚の丸焼き。

脂がのって美味しかった。

翌日はできるだけ潮の影響を受けないように上流にいってみることにした。

川幅も狭まり、オーバーハングが増えて、より低い弾道でキャストをする必要があったので、タックルを「MX-71」(廃盤、後継機種「MX-7」)のグリップに「MX-∞」のブランクを組み合わせて使ってみた。

この組み合わせでちょうど6フィート、それぞれノーマル仕様よりも手返しがよく、キャストの精度を上げることができた(下画像右から2本目)。

その他、田山君の勧めに従い用意した「MX-6Pro」他、6フィート前後に組み上げたタックルがボート上に並ぶ。

昨日の様子から勝負は潮が上がり切る前の午前中だと感じていた。

川の色も変わらず濁ったままだったので、トップは捨てて、魚の目の前にルアーを通すイメージでディープダイバーミノーを投げ続けることにした。

焦る心を抑えて、キャストを続ける。

小さな流れ込みに差し掛かり、倒木に流れが当たる場所にルアーを投げ込んだ。

巻き始めてすぐ、ルアーが沈んだ倒木を通り過ぎたとき、リーリングをする手が止められる。

その瞬間に竿にもガツンときた。

ドラグを出されないように親指でスプールを抑え、竿の曲がりをキープしたまま、とにかく巻き続ける。

倒木をかわして水から姿を現したのは、紛れもないパプアンバス。

ランディングに少し手間取ったものの、針の刺さり方を確認して最後は抜き上げた。

大事にそっと持ち上げたのは、確かにあの日の憧れ。

もう釣ることはできないと思っていた魚が今、目の前にいる。

写真を撮り終えて一息。

15年の月日に想いを馳せる。

思い立った瞬間を捕まえなければ、きっと一生釣れないままだった。

そして、釣り旅での最後の言葉を思い出した。

「またいつか、そのうちきっと。」

それは諦めの言葉ではなかったからこそ、こうしてパプアンバスに出会うことができた。

結局、2匹目のパプアンバスは釣れなかったが、もう一つの夢が叶った。

はじめて釣るバラマンディに感情が溢れて叫んだ。

もう充分だった。

目的がすべて達成されたように思われるかもしれないが、西パプア遠征はここで終わらない。

次のレポートでは、過去最高に釣れたGTキャスティングについて報告したい。

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高校時代に小塚の著書「怪物狩り」を読み、それきっかけに大学進学後は南米アマゾンのジャングルや、アフリカの大地溝帯、果ては中東イスラム圏まで、計7ヵ国を旅する。学生時代の9回の釣り旅はすべて、行き当たりばったりの“旅的”スタイル(個人釣行)にこだわった。大学卒業後は一般企業に就職。ライフスタイルの変化に対応し、オフショアに目を向け、GTやヒラマサのキャスティングゲームに没頭。直感的に行動した結果、報われてこなかった半生を反省し、「感じるな、考えるんだ」と竿を振る。