初海外×高校生。南米スリナムでひとり旅、“皇帝”ピライーバを求めて(後編)

中編から続きます。

上流域にピライーバの可能性を見出した僕らは、丸 2日かけて 300 ~ 400km ほど川を登った。

目的のポ イントに着いたのは、2日目の午後、川の分岐点から少し登った、明らかに水流が渦巻いているエリアの前に キャンプを設置。

「大型のナマズなら、おそらくアウトサイドの深みにいて、夜になったらその周りのシャローエリアに捕食しに来るだろう」

夕飯を待つ間、サクッと「MX-1」のフライモードで小魚を釣り、ボートの後方にできたイケス(ボートの浸水による水たまり)に。

3 匹ほど確保したところで、暗くなったのでピライーバ狙いの竿を出した。

キャプテン(ボートの操縦を担う、知識量の多いオッサン)が「大型は川の真ん中を通る」というので、仕 掛けは流心へ。

ブッシュの中からでは、道糸が枝にかかってしまうので、少しでもつき出したボートの後方に竿を固定し夕飯を食べ始めた。

タックルは、「HUNTERS HT-∞∞」(プロト) にアベット LX(借り物)。

ラインはPE12 号を150m 入れ、予備で150m 持って行った。

ナイロンリーダーは220lbを20m ほど、仕掛けは30号の石鯛用のPEラインを1m ほどとり(歯ズレ対策)オモリは 40 号くらいのものを 300kg 耐性の三俣サルカンで固定(現地購入)。

フックは、テスターの古田さんからのおすすめで細軸の大型のものを(強度面では問題なし、大型ナマズ の硬い口内、しっかり貫くには、正直コレがベストだった)

5 分もしないうちに激しいクリッカーの音が!

嘘だろ!

早すぎる!

竿に駆け寄り、すぐにフッキングするもすっぽ抜け。

にしても凄い勢いで糸が出ていた……興奮気味に仕掛けを回収していると、キャプテンが頷きながら「ラウラウだ」とニヤリ。

いやいや、この川 にフィッシュイーターは山ほどいる、流石に都合が良すぎないか?

すぐに再投入しようとイケスに戻ると、ストックしてあった魚がいなくなっていた。

飛び出したんだろうな と思いながら、「また釣ればいいか」と思っていたけど、暗くなった水面に小魚の魚影はなくライトを照らしても虫がまとわりつくだけ。

「え、エサないの?!」

しばらく粘ってみたけどやっぱりダメ。

食事をほったらかしていた僕に、ポコ(コック兼漁師)とキャプテンが、とりあえずメシを食い切れと親のように言ってくる。

興奮していた僕は「いや、今がチャンスだろ! そうだ、昼間に釣ったワラクーを出してぶつ切りにしてくれ!」と頼む。

しかし、「とりあえずメシを食え」の一点張り……。

なんだ、急に親みたいになりやがって、と少しだけ実家の夕飯前みたいな空気感に、「これは食べなきゃいうこと聞いてくれないな」と虫のたかった激辛ご飯を掻き込んだ。

けれど、こんな時に頼りになったのが、例のお節介男、プロム。

お節介がいい方に働き、食べている間に注文通りにワラクーのぶつ切りを準備しておいてくれた!

しかも彼の大雑把な性格が効いたのか、内臓付きの比較的大きめのぶつ切り!

「ナイスだプロム!」

仕掛けを再度流心に投入してから、川の水で軽く汗を流してハンモックへ。

真っ暗な闇夜に時折り響く、ツクナレかタライロンの捕食音に掻き立てられて、何投かルアーを投げるも、慣れない夜のキャスティングに すぐさま飽きて30 分ほどで就寝した。

ほどなくしてプロムの叫び声、飛び起きるとクリッカーの激しい音!!

ハンモックからボートに駆け寄り竿を掴むと、150m 巻いていたラインの残り 25m のマーカーが出ていったところ。

まずい!

早すぎる!

指でスプールを押さえるも、ギュンッギュンッとラインが出ていき、スプールからは煙が出る。

いままで感 じたことのない重量感と特大サメのような遊泳力。

止めないと!

一度リールを川の中に突っ込んで冷ましてから両足をボートのへりに固定し、ドラグをフルロック、竿を信じてフルベント!

「マジか!とまった!笑」

これまでの子ナマズたち(60cm 程度)では全く引き出せなかった 「HUNTERS HT-∞∞」(プロト)の正真 正銘の“強さ”に半分笑ってしまった。(この辺り、動画に納めたのでどこかの機会で)

主導権がこちらに移ったところで一気に寄せるも、100m ほど巻いたところでセカンドラン。

さらに残り20~30m あたりでの攻防が 20 分ほど続き、明らかに弱ってきた相手が一気に浮上……。

「マジか!でっか!でっか!ラウラウだぁぁぁぁ!!」

大興奮の僕の声に、それまで爆睡していたポコとキャプテンも起床……したものの、寝ぼけていたのか、その経験値ゆえに目の前の怪物に冷静でいれたのか、とにかくハンモック から立ちあがろうとせず。

「このバケモノのランディング手伝ってくれないのかよ!」

このとき、僕と同じくらい興奮していたのが“お調子者”のプロムだった。

興奮を通り越して、近所のおばちゃん家の小型犬みたく、何かしたいけど何もできずにボート上で僕の後ろを行ったり来たり。

「そうだ、プロム!グローブ!グローブ!」

出船の時に、彼が持参してきた小さなリュックから「これでラウラウの口を掴めば痛くないだろう」と、自慢げに取り出していた軍手。

僕の言葉に、ハッとしたようにリュックを漁り始めたプロムだったが、真っ暗闇だったからか、取り出したのは何故か靴下……。

「え? グローブどこやったんだよ!」

焦りで言葉が伝わってないのかな?、とリーダーを手繰り寄せ、口を掴むジェスチャーをしてみせた。

するとプロムは、自分のレインコートの袖を伸ばしてハンドランディング!!笑

なんか違う!

あぶねぇ!

けどナイス!!

剣山のような歯が並ぶ……だけならいいが、そんな“剣山”を 2 メートルの巨体を使って頭を振り回す!

プロムの必死さに負けじと、僕も申し訳程度の靴下で補助(それでも手は傷だらけになった) 。

「絶対に離さないぞ!!」

2人の手が塞がったところで、やっとポコも立ち上がり、ボートを固定していたロープをパス。

エラから口に通してガッチリ固定、獲った……!!

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」


この時の記憶は曖昧だけど、真っ暗のGoPro の映像に喜びを分かち合う僕らの叫び声(主に僕とプロム)がしっかり収まってた。

保護者のように見守っていたポコとキャプテンは、「夢が叶ったな」とか「これで日本に帰れるか?笑」と冗談混じりに優しく称えてくれた。

魚を撫でながら冷静さを取り戻した僕は、ここまでの時間と道のりを思い出して、その言葉に涙が止まらなかった。

……しばらくバタバタしていたプロム、僕がハンモックに戻る頃には力尽きたように船の上で爆睡していた笑

「やったな!プロム!ここまでのは全部チャラだ!お前がいてよかった!」

寝ている間も、30 分間隔くらいで目覚めて何度も魚を確認した。

ロープで固定しているのに、時間が経つほ どに元気になっていくのに驚いた。

夜の間、ピラニアかなにかに齧られた尾鰭。

……4時ごろ、そろそろ明るくなるってことと、もう寝ていられないという思いで、ひとり釣りを始めた。

昨日の残りのワラクーの身をつけてキャスト。

ルアーを数投。

たびたびタライロン、ツクナレと思われるアカメみたいな捕食音が響く中、ノーバイト。

すぐに飽きてハンモックに戻って眠りに落ちて…… 再度クリッカーの音が響いた!

眠りが浅かった自分は飛び起きた。

駆けつけてクラッチをもどす。

明らかに1匹目よりも引きが強かった。

ここでもリールがアツアツになり川の水に何度も浸した。

ロッドパワーの感覚を掴んだ僕は、不安なく全力でフルベント!

すると船が動く……!?

繋いであったロープを昨日ピライーバに繋いでいたのを忘れていた!(ボートは陸に船首を乗り上げてい ただけ、作用・反作用って理科で勉強したあれだ!)

「まずい、ホントの 1 人旅がはじまっちゃう!」

ひとまずクラッチをオフにして、船の後方に走りほっそい枝を掴んだ。

唯一起きていたプロムが片手を伸ばしてくれて、洋画でよくあるシーンみたいに、片手と片手で「うぉーーーー!」と叫びながら無事上陸……焦った!

すぐに体勢を整え直すも、魚が動かない。

ラインが擦れる音がした。

ラインをそのままストレートに引っ張る。

動いた!

しかし、そこからも長かった。

相変わらず、リーダーが見えてからもめちゃくちゃ走る。

ここは、ロッドパワーを活かした強気ファイトでねじ伏せにかかる!

ファイトタイム 20 分弱。

長さは同じくらいに見えたが、めちゃくちゃ太かった!

ロープに 2 本目をつなぐ。

「よっしゃぁぁ!!!」

また釣れちゃった!!

ジャングルの中に響いた叫び声で、夜明けから共鳴していたバンブー(めちゃくちゃうるさい小型のサル)が、驚いたのか静かになったことが面白く、みんなで大笑いした笑

明るくなってから、写真撮影。

190cmと……2匹目は201cm。

いわずもか、自己最大魚。

何枚かその場で撮ってもらったあと、「魚を持ち上げたい。水中に入るか ら、上から撮ってくれ!」と頼むと、「絶対にダメだ! ここは深くて足がつかないし、カイマンもピラニアもいる。危険すぎる」とキャプテンとポコ。

どうやら昔入水して、ナニかに噛まれ怪我をした友人がいたらしい。

しかしそんなことは、今の僕には関係ない。

「それなら浅いとこに行こう! なんならピラニアに噛まれたって良いぜ!」

「いや、絶対にだめた!」

そんなやりとりでお互い半ギレになりつつある空気を一転させたのはあの男、プロム……。

言い合いの隣で朝食の下準備をしていた彼は、昨日釣った魚の内臓を川に投げ捨てた。

とたんに群がるピラニア……。

「おぉぉい!! ピラニヤが危険かどうかで話してんのに、なんで火に油注ぐんだよ!」

ポカンとした顔をするプロム、ニヤッとした(気がする)入水否定派の 2 人。

怒りも呆れも通り越して、もうどうでも良くなった。

上写真は別の時の写真だけど、こんな感じで群がったピラニア。

1 分もしない間にピラニアに襲われる。

ちなみにコレが例の軍手をしているプロム……。

……ぼーっとしたまま朝食を終え、楽しみだった網回収へ。

自分が場所を指定した特大ネットに、カイマンと小型のピライーバがかかっていて、めちゃくちゃ嬉しかった!

この日カイマンの他、1m ほどの子ライーバ 2 匹に中型のタライロン、ワラクーなどたくさんの魚がとれた!

小ピライーバは髭が体長と同じくらいあった!

ピライーバをボートへ。

大人 3 人でギリギリ持ち上がる、かどうか。

来るときは氷でいっぱいだった冷蔵庫も魚でパンパンになり、その日の午前中には、川を降り始めることに。

途中、お昼ご飯を食べたあと、ピライーバの解体へ。魚というより、大型動物。

尋常でない血液と圧倒的な分厚い身、マグロの解体ショーなど比にもならないほど、圧倒された。

2本目に釣った太い方の個体からは、大量の卵が出てきた。

“乾季、産卵のために俎上する”という自分なりの仮説が当たっていたのかも。

フッキングしなかったもの、怪しいバイトも含めれば、一晩に4回。

新たなピライーバ天国を見つけたのかもしれない!

ピライーバの卵、調べても出てこない?!

プロムの機転でなんとか対応できた“剣山”。

午後からも相変わらず、ハイスピードフィッシングをしながら川をくだり、「Banheiro」でピーコックやピラニアをポツポツ釣りつつ下った。

色々試した結果、インドネシア製・ラジャのバズベイトが無双したが、30 分ほどでこのザマ笑

最終的には、「Banheiro」に戻る笑。

……それにしても、昨日から今日にかけては、信じられないような釣れ方だった!

川幅が広がってきて釣りしづらくなったころに日も暮れ始めストップフィッシング。

途中、原住民(?)に絡まれる事態もあったけれど説明がとても長くなるので興味があれば Instagram のハ イライトからどうぞ笑。

船上で、お昼の残りご飯を食べながらふと思い出して、バックの底から出発前に祖母からもらった味海苔を取り出して添えた。

冷たいはずのごはんもなぜか暖かく感じて、スマホも圏外のジャングルで少しだけホッとした。

……後日読み返すと、その日、日記にはこう書いていた。

“75 馬力フルスロットルの木製船の上でガスを使って川の水を沸かした。船上のコーヒーが予想以上に美味かった。写真をとると、ここまで捉えられなかった全員の笑顔を映すことができた! みんなハッピーなのかな。とてつもなくウザかったプロムも彼らの漁のせいで失った釣りの時間も、撮れなかった入水写真も、全てがどうでもよくなって、なぜか幸せを感じた。コーヒーってなんかいいな。今日はできれば寝ないでいた い。明日の朝にはつくだろうか。電波が戻り次第、みんなに連絡しよう”

(次回、エピローグに続く)

<参考レポート>

齢18歳の現役高校生(2023年1月現在)。中学校の修学旅行で向かう沖縄に、大物に耐えうるロッドを忍ばせたいとのきっかけでモバイルロッドに興味を持つ。知り合いの牧場で“お手伝い”し、初めての自腹で購入したロッドがディアモンスター「MX-7」(決めてはスピニングモードとくるくるシ ート)。 高校在学中から海外遠征を志すも、入学と同時にコロナ禍で足止め。結果、腐ることなく国内での大型魚釣りに高頻度で挑戦し、才能が一気に開花(しつつある)。 高校卒業後、しばらくは海外釣行を軸にした生活を計画中。