新モデル「MZ-6S」ってどんな竿?(後編)-夫婦竿「MZ-7」と互換編-

前編(単体編)に続きます。



Wフットガイドが搭載された標準ティップ(トップガイド含め4つガイドが搭載/上)と、シングルフットガイドが搭載された替え穂ティップ(トップガイド含め5つガイドが搭載/下)と、「MZ-6S」にはそれ単体でも、2本の竿として使えるという話を前編(単体編)ではさせていただきました。

後編では、“夫婦竿”の「MZ-7」と互換させることでどうなるか、バナーに謳わせていただいた“共鳴する”とはどういうことか、お話しさせていただこうと思います。


まず最初に分かりやすい部分から。

下画像は、上から順に「MZ-7」のティップ(1本、ガイド3つ)と「MZ-6S」のティップ(2本、ガイド4つ&5つ)です。

この3本のティップセクションの径を統一設計してあります


つまり「MZ-6S」に「MZ-7」のティップが入るし、その逆も然り。

ベリーセクションから連なるガイド配置も、無理のないよう設計してあります。

「標準よりもっと強い(穂先が硬い)『MZ-6S』も作れるし、逆に、穂先が柔らかい、先調子&超先調子の『MZ-7』がセッティングできる」ということです。


この構造について話した時「使わせてください!」とピンときた風だったのが、同郷富山の川合テスターでした。

バリバリの感度重視、“撃ちモノ”特性がディアモンの中でも頭ひとつ抜けた「MZ-7」の特性を、さらに強化する……分かりやすくハマる釣りが、フリーリグでのチヌ釣りかなと思います。

こと、シングルラッピングの“替え穂”との組み合わせで、専用ロッドに勝るとも劣らない使用感を獲得したかなと。

ディアモンが(やればできるのはわかっていて)温存していた感度特性、「感度に関しては、まだまだ本気を出してない」「モバイルロッドは感度が悪い、は違う」とずっと謙遜(?)してきた部分が、いよいよ“モバイルロッドの本気”を体感してもらえるかと思います。


ーーーと、ここまでは序章。

MZ-6S」の特性の本懐、“共鳴”は、ここから。

上が「MZ-7」のバットセクション(♯5)、下が「MZ-6S」のバットセクション(♯4)です。


そのレングス差22.5cm(9インチ)、この部分が互換する、いわば“替え胴”。


例えばベイトロッド「MZ-7」(約6フィート半)ベースで「MZ-6S」のバットに互換し、約6フィートに短くなって、アマゾンでの連続ジャークに対応し、一方スピニング「MZ-6S」(6フィート弱)ベースで、「MZ-7」のバットに互換し、約6フィート半に延長して、ラインスラッグを駆使する繊細な操作に順応する、など……。


“共鳴する”と謳った真意、1本でも充分以上だけど、2本持った時の自由度が他に類を見ない。

シブい状況での細かな適応進化には、実際に助けられました。

ここで補足説明になりますが、この構造は“替え胴”であって、“追い元”(エクステンションバット)ではありません。

追い元「MX-PROGRESS (シリーズ)」と一見似ていますが、“替え胴”は「MZ-6S」と「MZ-7」にだけけ、“Z”シリーズの“夫婦竿”の間でだけ成立するギミックです。

ディアモン全機種に対応(当然“Z”にも)し、レングス延長させるプログレスシリーズ(追い元)は、最短・最軽量の「MX-PROGRESS 15 」でも実測28gちょいあります。

最強モデル「MX-∞」にも適応する強度を持たせたためですが、印籠継ぎ構造(2本のパイプを重ね、ずらして接着したイメージ)のため、重なる箇所の分、重くなります。

一方、“替え胴”は、単純な並継構造(1本のパイプのイメージ)、重量は半分以下の実測13gちょいです。

印籠継ぎのような“奥突き”を考えなくていいので、長さもよりコンパクトに、有効レングス15cm以下に設計可能な訳です(ディアモンのバットの“込み”は80mm前後のため、プログレスは有効レングスを15cm以下にはできない)

“追い元”と“替え胴”、それぞれがができること、できないことを精査し、同時期に設計&テストを進めたことで、両者ともクオリティが上がったと思っていますが……その上で。

“追い元”はそもそも和竿の世界の言葉で、古くからあるわけですが、“替え胴”なんてコトバは僕の造語。

参考になるロッドも無い(少なくとも知らない)中で、だからこそ自由に、ワクワクしながら開発は進んでいきました。


改めて、MZ-6S」の“替え胴”について。

一般に“デカール”と呼ばれる「Dear Monster」と箔が貼られた装飾部分、ここで継ぎます。

“ディアモンの共通径”はざっくり、13mm超(測り方や温度により変わるため小数点以下は明言しません)なわけですが、ここで一気に径を絞る。


デカール部(♯5)に挿入されるバットセクション(♯4)は実測で10mmちょい、約3mmの絞り込み。

使用感は……単純重量のみならず、キャスト時の振り抜け感、操作時の風による抵抗などは、細ければ細いほど重量差以上に軽快になります。

バットが細い竿、という1点にだけ注力して開発するなら容易ですが、“Dear Monsterとして”目指す使用感を獲得できないか?

“Dear Monster”であること……それは、シリーズとしての統一感(共通径)を有しながら、その上で単に機能優先でなく、整合性の取れた美しさ、いわゆる“機能美”を持ち合わせていることです。


デカール部で継げば、印字部のそのものの存在感、コーティングに伴うボリューム感(の必然性)を隠れ蓑に、デザイン的に最もシンプルに、一気にブランク径を絞り込むことができる。

ピーンときた、全て繋がった。

「機能的でいて美しく、新しい……ディアモンを超えるディアモンの完成だ!」


仕舞寸を50cmから40cmに単純に短くするだけじゃない(「MX-39」は仕舞寸は40cm以下ですが“X”です)、“替え胴”構造のアイディアから、「MZ-6S」はいちスピニングロッド(単体)としても個性も際立つ竿に仕上がった。

そんな“替え胴”を組み込みんで、MZ-6Sグリップ周辺はスッキリ40cm。

実際、ここが収まりよくならないと、収納時に“替え胴”の紛失が多発することが容易に想像できました。

もちろん、以降の過程で細かな調整・バランス取りは行いましたが、その際にも“替え胴”込みで40cmのグリップ、これが様々迷った際の回帰点。

このグリップの長さ・バランスに合わせて、ブランクパワーを決めていき……以降、フィールドでの“テスト”としては、前編(単体編)に書いたような過程を。

“Z”として突き抜けているか、否か。

“道具”としてだけでない、“作品”としてのオリジナル(思想)があるか。


……こうして、一般的な「○○用の竿」といった用途優先の固定観念を離れ、構造上の制限要因・機能美を優先して生まれた「MZ-6S」は、逆に何用の竿でもない、思想的な意味でも“怪魚ロッド”と呼べる(呼ぶしかない)一本に仕上がったかと思います。


「共鳴する“Z”」……一方でそれは「今なら2本でやれるんじゃないか?」という挑戦でもありました。

「3本で世界中の淡水魚をカバーする!」を標榜した“X”シリーズの“御三家“(「MX-6」「MX-7」「MX-∞」)を構想して約10年、そこから1本断捨離し、今の自分なら2本でいいんじゃないか?

株式会社モンスターキスというチャレンジ、竿作りという旅も10年を過ぎ、自分自身が40アンダー(30代後半)に差し掛かってきたことも、仕舞寸40アンダーの“Z”シリーズと“共鳴”していると思います。

とにかく巨大魚を追い求めた時代を過ぎて……2023年、37歳時点での僕の旅感が「MZ-7」と「MZ-6S」の2本であり、僕の旅の“新時代”は今後のレポートで紹介できればと思います(5月下旬から短期で2回の海外遠征予定していましたが延期中)。

参考までに、50cmジャストに整えた「MX-7」のグリップと並べるとこんな感じです。

40アンダー対応のアルミケース等、“Z”だからこそ、を様々試作しています。


……まとめに入っていきます。


MZ-7」と「MZ-6S」、ここまで“替え穂”と“替え胴”にフォーカスして説明させていただきましたが、ここからは単純計算です。

①“替え穂”でティップは3種類

②“替え胴”により互換するので、ベリー2種類からバット2種類で2×2=4種類

③リールシート部は「MZ-6S」だけで2パターン(下画像)、「MZ-7」と合わせて3種類

④リヤグリップ部で2種類

以上、①〜④を組み合わせれば、

変え穂3×ベリー2×替え胴2×リールシート3×リアグリップ2=72パターンのロッドが作れるわけです。


前編(単体編)にも書かせていただきましたが、「MZ-6S」はバットガイドをスピニングロッドとしては異例の小ささにまとめているのは、この辺りの互換性まで考慮してのこと。

MZ-6S」のブランクをベイトリールで組んだとしても、大きな無理なく“使える”かと。


72パターン全てが、とりあえず使えるように、ガイドの種類、配置、デザインを微調整し……「全てを諦めないなら、これ以外無い」というところに着地させたつもりです。

MZ-7」を所有され、使用感を気に入ってくださっている方はズバリ、「揃えない方がもったいない!(断言)」

もちろん、ガイド配置による糸抜けや、先重りなどのバランス問題など、72パターン全てが“使いやすく”は無いと思いますが……“使えない”わけではない。

“正解がある、ならば、あえて間違ってみたい”

僕が常々大事にしているのは、そういった考え方。

そこに、僕の固定観念を突き抜ける、新しい発見があるかもしれないからーーー。



最後になりますが、新モデル発売前の恒例(?)としている私的サブネームについて。

(旧ブログで紹介しましたが)MZ-7」は“No-Limit”。

ほぼ同じ意味を言い換えて、「MZ-6S」は“Un-Chain”(縛られ無き者)。

上画像は、始祖のDear Monster「MX-71」(2011〜2012年にかけて作った3rdプロトと4thプロト)の開発時に、試しに印字してみたもの。

最終的に「印字した時点で名前に縛られる、それは違う」として、製品化に際しては印字を避けディアモンにはごく個人的に呼ぶにとどめ続ける“私的サブネーム”。

手にした方が自由な発想・印象で、名前をつけてくだされば(つけなくても)いいですがーーー僕個人は、10年前から揺らぐことのないディアモンの思想を、“Z”の2本に託して呼んでいる。


型破りを旨とするDear Monsterシリーズの中でも、とりわけ型破りな「MZ-6S」。

“Z”として、文字通り極論的なモデルとして、固定観念に縛られない“自由の象徴”。


「こんな硬くて短いスピニングロッド、何に使……おうか?」

使い手を焚き付ける一本……きっと“共鳴”いただけることと思います!


<参考レポート>

株式会社モンスターキス代表。怪魚(巨大淡水魚)を追いかけ、これまでに世界56か国を釣り歩く。物心つく前から魚(釣り)に熱中し、30年以上経った今日も継続中。北陸・富山に生まれ育ち、小学4年時にキジハタからルアー釣りを開始、中学・高校時代はバス釣りに熱中。大学進学以後は「今しかできない釣りを。遠くから行こう!どうせなら大物を狙おう!」と世界の辺境を目指した結果、いつしか“怪魚ハンター”と呼ばれ、それが仕事になり、旅は今も続いている。著書多数、近書に「怪魚大全」(扶桑社)。剣道3段。趣味はハンティング(鉄砲)