About-対象魚-
南米大陸北部に広く分布し、現地ポルトガル語圏(ブラジル)で「ツクナレ」、現地スペイン語圏では「パボーン」と呼ばれるCichla属は、その美しい色彩と、豪快な水面バイト&ジャンプで、世界最高の“ゲームフィッシュ”と呼ばれることも多い。
“怪魚”という釣りに興味を持った方なら、一度はチャレンジしてみてほしいターゲットだ。
英語では「ピーコックバス」、観賞魚業界では「アイスポットシクリッド」とも呼ばれ、2023年2月現在16種が記載されている(9種という学説もある)南米アマゾンを象徴する肉食魚である。
最大サイズの大小はあれ、どの種も“ゲームフィッシュ”として優れており、それぞれにサイズアップや数を求める楽しみが存在する。
“怪魚”的には、広く南米を釣り歩き、全種コンプリートを目指す旅がお勧めだ。
赤や青、黄色に緑と、水域・環境により種分化し、広大なブラックウォーター(止水)から、荒々しい激流まで、多種多様な「アマゾン」に出会うことができるだろう。
以下、注釈がない場合はポルトガル語圏で「ツクナレ・アスー」、スペイン語圏(ベネズエラ・コロンビア)の「パボーン(グランデ)」と呼ばれる最大種、テメンシス種(Cichala temeisis)を念頭に話を進める(以下、一般的な「ピーコックバス」を軸に、適宜上記呼称を使い分ける)
ピーコックバス(テメンシス種)の最大サイズに関して、1mを超えるといういわゆる“アマゾン話”もあるが、実際は90cmを超えることは稀だと思われる。
一方、体重は10kgを超え、“1m10kg”という、筆者なりの“怪魚”の範疇に入ってくる。
サイズを求めて旅する“ゲームフィッシュ”的なアプローチであれば、やはり最大種であるテメンシス種がターゲットになるだろう。
信頼度の高い記録としてIGFAワールドレコード(テメンシス種は「Peacock, speckled」と分類)を参考にすれば、2010年11月に記録された13.19 kg (29 lb 1 oz)が重量の最大だ。
近年新設された全長による記録では、91~92cmに3匹がタイ記録として認定されているから、この辺りが最大クラスと考えれば良い(2023年2月現在)。
以上から、日本にも移入されているオオクチバスにプラス20cm程度のサイズ感覚で、70cm以上が日本の“50アップ”に相当する現実的目標サイズ、80cm以上が“ロクマル”に相当するトロフィーサイズと呼んで、タックルセッティングの参考にするのがいいだろう。
なお、テメンシス種に顕著な特徴として、頭が盛り上がり、体も太くなり、体色も黄色くなった「アスー」と呼ばれる状態(と老成オスと言われる)と、比較的スレンダーで白い斑点が入る「パッカ」(日本の鹿に似た体色の“パッカ”と呼ばれる大型ネズミに由来)と、大きく2つのフェイズ(相)を持つ。
中間的な個体は「アスパッカ」と呼ばれ、見た目は大きく異なるが同種である。
同一地域でも個体差を釣り愛でる、そして地域差を愛で歩く(後述)……まるでタナゴのような楽しみが“怪魚”と言われる大型魚で可能なのも、ピーコックバスぐらいなので、そういう視点で釣りをするのも楽しい。
Where -釣り場-
ピーコックバス類(Cichla属)はアマゾン川水系を中心に南米大陸北部に広く種分化し、上流で水源を共有するオリノコ河水系や、ガイアナのエセキボ川をはじめとしたギアナ3国の独立小河川にまで広く生息する。
有名な南米の釣魚であるドラド(Salminus属の大型種)とは生息域は被らない。
ブラジルのサンフランシスコ川水系、パラナ川水系には在来せず、そこに現在生息するピーコックバスは移入種である。
最大種のテメンシス種に絞って言えば、なんといってもブラジルのネグロ川が有名で、国際線もある大都市「マナウス」を起点に、その上流に位置するネグロ川を攻めるのが、初めてピーコックバスにチャレンジする方にも敷居が低いにだろう。
沿岸にある町「バルセロス」では重要な観光資源となっており、各種サービスの選択肢も多い。その名の通りネグロ(黒い、の意)な水を、ブラックウォーターを称えた広大な止水エリア(逆ワンドや、ラグーンと呼ばれる三日月湖など)での釣りがメインとなる。
他には、オリノコ川水系(ベネズエラ・コロンビア)にも生息し、こちらは場所によってはステイン・クリア系の水質のポイントもあって、そんな場所ではブルーバックの個体も釣れる。
エリア選択の次のステージ、いざ水辺に立っての詳細ポイントに関しては、日本のルアーフィッシングで馴染み深いオオクチバスでいうところの「スポーニングエリア」を意識すると、無限に広がるポイントの中で魚に出会うための近道だ。
日当たりのよい、底質が硬い所に、倒木などストラクチャーが絡んでいれば最高だ。
水通しの良い岬や、冠水樹木の生え方が岬状になった先端なども有望……そんな、「ここにいるだろ」と言う場所に、ちゃんといる。
広大なラーゴの中央に、ヒョロと見える枝(下に倒木がある)なども、思わぬ大物がついていたりする。
激流域に生息する種もいるが、体型を見てもわかるようにどちらかといえば止水好み・待ち伏せ型の捕食なので、流れの緩みを狙うと反応が多いだろう。
When -季節&時合い-
どの種も、基本的には水位の下がる乾季が釣りやすいのは、実体験で間違いないように思う。
雨季は浸水林に分散すると言われるが、少し踏み込めば、曇りがちで、日中に水温が上がらず、いても低活性(口を使わない)という理由も大きいと感じている。
そのように考えればロジックが組みやすいが、実際1日のうちでも水温が上がる午後から活性が上がる印象が強い。
朝イチは頑張って起きたわりにあまりいい思いをした記憶が無い。近年は朝ごはんをしっかり食べて、9時過ぎからの出撃すれば十分だろう。
釣期に関して、ブラジルのネグロ川に限ってですらも、その上流と下流でベスト釣期は異なる。
本流筋に水が多ければ、支流筋の上流へ……など、時間さえあれば何かしら打開策はある。
ネグロ川全域で話すなら、9月頃から3月いっぱいまで、どこかしら良い場所、良いタイミングがあるという認識だ。
日本では年末年始の休暇に絡め、日本が最も寒く、釣りのオフシーズンになる12月末~1月に釣行する方が多い印象だが、昨今の気候変動も加味し、現地ブラジル人の話を聞いても、ベストシーズンは11月前後と思われる。
少し前の話になるが、筆者の自己ベストの87cmも11月に釣った(2008年)。
Who&Which -バックパッカーorマザーボート?-
ネグロ川のでのピーコックバス釣りには大きく、2つのスタイルある。
予定を固めず現地に赴く“旅”(バックパッカースタイル)か、事前手配していく“旅行”(マザーボートスタイル)か。
どちらも一長一短ある。
前者は、各種中間サービスを省き現地ローカル(船頭)との直接交渉になるため、比較的予算を抑えられること、少人数で動けること(単独行でもいいが2人旅がコスパが良い)、状況(水位)が悪かった場合に見切りをつけられること、などにメリットが大きい。
後者は、荷物量の制限が少ないこと、釣りだけに集中できる(釣れるか釣れないかはさておき、釣りをすることはできる)こと、大人数での釣行に適していること、日本出発から帰国まで最短10日程度のスケジュールで成立すること、万が一の事故やトラブルの際の安心感、などが挙げられる。
制限要因として、20代ではマザーボートスタイルは経済的に難しいだろうし、日本で背負うもの増える40代以降はバックパッカースタイルは時間的に難しくなるだろう。
ちょうどその中間、両方もやってみた筆者(30代)の感想で言えば、選べるなら、この「誰と」という視点でスタイルを選ぶといい。
人生の境目にひとり旅をしたい、日本語を話さない時間が欲しい、同じ価値観を持つ相方(日本人)と釣り以外の話はしたくない、土地の人の生活や価値観に触れたい……そんな非日常を求めるならバックパッカースタイルだし、体力に不安のある方(目上の方)との釣行や、釣り人3人以上(ボート2艇以上)の団体行動、外国の「釣り人」と仲良くなりたい(アメリカ人を筆頭に、ブラジル都市部のアングラーなどと乗合いとなる場合が多い)といった、どちらかと言えば日常の延長線上を求めるならマザーボートスタイルだ。
What -タックル-
テメンシス種に関していえば、以下①~③まで、ジャークベイト用、ペンシルベイト用、ビッグスイッシャー用の3タックルを用意していくと、ほぼ全ての状況に対応できるだろう。
①は70アップ想定、②は80アップを狙って獲るために、③は夢の90アップを目指して。
テメンシス種以外のピーコックバスであれば、①②でほぼ事足りる。
④は保険。
“旅”なら①~③で魚が出ない状況なら大移動を勧めるが、行程が決められている“旅行”ではそうはいかない。
置かれた状況の中で、なんとか魚を引き出すために。
<①ジャークベイト用>
「MX-6」+小型ベイトリール(ハイギア)+PE2号&リーダー20ポンド以上~PE4号&リーダー40ポンド以上。
ジャークベイトは10cm1/2オンス程度(メガバス・ビジョンワンテン等)が使いやすい。
ペンシルベイトと比べて水の抵抗があるので、1日中動かすには手首に負担を考えれば比較的小粒のジャークベイトがオススメだ。
「1/2オンスのルアーをストレスなく飛ばすには?」という視点から、ロッドは「MX-6」がオススメとなる。
そこにバランスを取る形で、リール、ラインをセッティングすると良い。
ドラグ力はそこまでの強度を求めないで良い。操作性とタックルバランス重視で、適宜指でスプールを押さえて対応する。
<②ペンシルベイト用>
「MX-6+」+小~中型ベイトリール(ハイギア)+PE3号&リーダー30ポンド以上~PE5号&リーダー50ポンド以上。
ペンシルベイトは10センチ前後、3/4オンス程度から1オンス前後までの斜め~垂直浮きタイプがパニックアクションを演出しやすく、使いやすい。
水平浮きでスローなスケーティングアクションが得意なタイプは向かない。
このタックルそのままで14cm前後、1オンス前後のミノー(ジャークベイトではない)をタダ巻きするなどして、流れの中でカショーロ(パヤーラ)やタライロン(アイマラ)などの、牙のあるルアーターゲットを狙うこともできる。
<③ビッグスイッシャー用>
「MX-6Pro」または「MX-7」+中型ベイトリール+PE4号&リーダー40ポンド以上~PE6号&リーダー60ポンド以上。
15センチ以上、1オンス超級のビッグスイッシャーのリッピングをメインとしたセッティング。
手首が強い人は、「MX-PROGRESS15」などでレングスを延長すると、ストロークが長くなり、(身体的には辛くなるが)より魚を呼び起こせるようになるだろう。
障害物周りや、流水エリアで、大型ミノーや大型のダートベイト(ラパラ・サブウォークなど)といった水中に潜るルアーを扱う際にも、重宝する。
④その他
「MZ-6S」または「MX-5S」+小~中型スピニングリール+PE2号&リーダー20ポンド以上
①のタックルでジャークベイトを投じてなお渋い時、強めのスピニングタックルがあると心強い。
スピンテールジグやフェザージグなどが最終手段となる
How -釣り方-
基本的には、タックル②「MX-6+」&ペンシルベイトで撃ち流していけばいい。
時々アクションが破綻するぐらいの高速ドックウォークで探っていく。
反応が悪ければ、タックル①「MX-6」&ジャークベイトで拾っていくか、タックル③「MX-6Pro」&ビッグスイッシャーで博打に出る。
ジャークベイトも、「ペンシルに飽きたから」という状況でなら、気持ちよくルアーが動く早めスピード(ハイギヤリールでよかったな、と感じる程度)で動かせばいいが、「ペンシルベイトで出ないから」という場合、ジャークベイトを“投じなければならない”状況であれば、移動距離を抑えたネチネチとした攻め方も織り交ぜると良いだろう。
ビッグスイッシャーは、ペンシルで出ない状況でも魚を水面に引き出せる(ことがある)。
やると決めたら、少なくとも半日はタックルを握り変えないくらいの心構えで。
体感として「ジョロロ、ジョロロ……」といったペラの回転を感じる音ではなく、「ファン、ファン……」といったバイクのスロットルを捻ったような音に聞こえるくらい、可能な限り力強く、早く、大音量でジャークする。
ショートロッド(とはいえ6フィート前半がいい。5フィート台は短い)なら1ピッチで、手首が弱い人はロングロッド&ロングストロークで箒掃きでも構わない。
やり通して、結果がついてくる釣りだ。
サウナの楽しみに近い、苦しいからこそ釣れた時のカタルシス(浄化)はハンパではない。
外道はほぼ来ない。
せいぜい、オリノセンシス種が時々からかいにくるが、釣れれば最低でも60cm前後、70cm以上がアベレージの印象。
概して、スピード感のある連続アクションが効果的だ。
裏技として、フェザージグは悪魔的な効果を見せる(時もある)。
時間にゆとりがある“旅”なら、状況が悪ければ大きくエリアを変える手もあるが、スケジュールが決められた“旅行”で、不幸にもタフコンディションに遭遇してしまった時に、状況を打破してくれるだろう。
Other -その他-
体調管理に関する部分で、いくつか情報共有を。
ピーコックバス釣行に関して装備的には、一般的な熱帯雨林地域の釣行と同じで特別な装備は必要無いが、“旅”スタイルでは着替えは着ている服の他に1セット(合計2セット、“着干し”を多用する)で問題無いけれど、“旅行”スタイルだからこそ、もう1セット増やし合計3セットは持っていくといいだろう。
マザーボートでランドリーサービスを頼んでも、天候次第では即日乾いて仕上がってくることばかりではなかった。
そして、できれば着替えを1セット、防水バッグにでも入れスピードボートに持ち込もう。
その上で、雨具は2セット(かさばろうが、日本で常用する1軍のもの&予備に携行性に優れたもの。できれば撥水性の高い新品)用意しておくことを強く勧める。
マザーボートスタイルは、至れり尽くせりだろうと装備が甘くなってしまいがちだったが、そこに落とし穴があった。
マザーボートを離れればそこは剥き出しのアマゾンの大自然。
拠点(雨風凌げるベースキャンプ)を作り、周囲で釣りをするバックパッカースタイルとは異なり、マザーボートスタイルでは、スピードボートで散り散り担ってしまえば、雨風を凌ぐものは基本的には無い。
むしろスピードボートで移動するため、拠点となるバスボートから釣り場までの距離が離れており、実際にあった例としては、急なスコールによりスピードボートを飛ばし、マザーボートに戻るまでにかかった1時間で、低体温症に陥った者がいた(翌日1日寝込んで釣りができなかった)。
雨具を重ね着するなり、途中で着替えるなり、対策はある。
マザーボートスタイルの場合、限られた日数だからこそ、ベストコンディションを維持できる工夫に頭を使うといいだろう。
text by Takuya Kozuka
(情報は2023年2月現在。以後随時加筆訂正)