前回レポート(その②)で怪しいエスキモー氏と出会い、彼の運転するスノーモービルにゆられ、氷原に繰り出したワタシ。
「以前、ここでオオカミを撃ったんだ!獲物がいたら、なんでも即撃つ!エスキモーだから大丈夫!」
とまぁそんな感じ。弾が入った状態で担いで運転するライフル銃……銃口がこっちに向かないかヒヤヒヤの道中です。
凍った北極海を爆走し、河口を目指します。
Googleマップで見ても「明らかにここでしょ!」という砂州、日本のスズキなら秋にメガドッグを投げたいようなそんな場所……やはり現地でも実績ポイントのようで、先行者の形跡あり。
日本でいうコマイかな?
エスキモー氏曰く、氷厚は4フィート半(135cm)。
電動ドリルで新規に穴を開けるのも重労働なので、いくつかあった先行者の穴を再利用することに。
新たに水面に張っていた氷は、厚さ10cmほど。
アナログなアイスピック(とエスキモー氏は呼んでいたが、日本で言うそれとは違う。鉄でできた槍のイメージ)で叩き割り、北極圏での釣りがスタート!
水深は7~10mといったところで……開始15分。
「ダメだ、いない。そして深すぎる!今日は帰るぞ!」
えーっ!?あまりにも諦め早すぎ、短気すぎでは……?
とはいえ、「Don’t argue me(オレに意見するな)」と言葉でも態度でもオーラを放つエスキモー氏。
無頼の凄腕に多い、ちょっとクセの強いタイプ。
「ホワイトパーソン(白人)は……」が口癖で、自身がエスキモーであることに強く誇りを持っている様子。
まぁ、このような偏屈親父(愛を込めて)と英語でコミニュケーションが取れることも、初めての北極圏の旅にアメリカを選んだ理由なのですが。
そして、鉄砲をやる人物に日本でもみられる、狩猟>釣り、という格付け……。
その後、岸際をゆっくり走りながら、獲物を探しつつ(見つからず)、何も起こらず帰宅して……理由が判明。
この日はイースター。
キリスト教徒の復活祭(?)。
奥さんの作る七面鳥料理が楽しみだったみたい(笑)
僕も夕飯のご相伴にあやかりました。
夏に自生するのを保存しておいたという、フレッシュラズベリーのソースとの相性が絶品!
さて、夕食を終えたこの時点で、今夜の宿は未定。
昨夜のB&B(ベッド&ブレックファースト、日本でいう民泊)でも1部屋1泊150ドル、日本円で2万円弱。
町の最安宿(連れ込み宿のような陰険な雰囲気……)ですら、1泊120ドルと極地価格。
参考までに、ビジネスホテルは312ドル、約4万円……。
短期の“旅行”ならまだしも、先の予定が見えない“旅”は、少しでも出費を抑えたい。
36歳にもなって小恥ずかしいけれど、勇気を持って言ってみました。
「ヘイ、ミスター……テント持ってきてるんだけど、庭に貼らせてくれない?」
結果、テント泊のお願いは、脚下されました。
「Don’t argue me(オレに意見するな)」と、エスキモー氏は作業小屋にパイプベッドを設置し、カリブー(トナカイ)の毛皮を敷いてくれました。
「明日はもう少し遠くまで、河口から遡上して、汽水湖の奥まで行くぞ!グッドナイト!」
クセが強いけど、優しい人だな……枕が無いので、無造作に転がっていたマンモスの大腿骨の化石(以前、狩り道中に見つけて、拾ってきたらしい)を利用。
枕元にはリトリーバー(獲物回収機)が無造作に。
撃った後、アザラシ類は浮くから木製のフローティング仕様を、クジラ類は沈むからシンキング仕様をと使い分けるんだとか……個人的には、プライスレスな、最高の宿です!
ちなみに寝袋は、モンベルさんのダウンハガーの1番(15年前にモンゴルのタイメン釣行の際に購入。マイナス10度程度想定)と3番(日本でフツーに使う用。気温ゼロ度程度想定)の手持ちの2つを重ねて使用。
エスキモー氏曰く「もう暖かい」とはいえ、夜はマイナス20度くらいまで気温が下がりましたが(作業小屋は親父のセルフビルドで断熱等の対策無し)、この辺りの装備は1月に朱鞠内湖(滞在期間の周辺の最低気温はマイナス29度)で車中泊を重ねて検証し、「新規に極地用の専用装備(高額)は購入する必要ない」と判断してのセレクト。
ハイ、充分でした。
そして翌朝は昨日の砂州を回り込み、その奥に広がる汽水湖を疾走!
「ウユニ塩湖みたいだな」という印象。
エスキモー氏セレクト(直感?)でスノーモビルを止め、電動ドリルで穴を開けようと試みますが……。
「シ○ト!昨日満タンにしておいたはずの電動ドリルの燃料タンクが空になってやがる!スノーモービルを傾げてくれ。そこから燃料を抜く!」
どうやら、燃料タンクに穴が空いている模様。
北極圏に来る前、入国書類上記載した湖畔の宿も、いざ行ってみると「寒暖差でガスのパイプに穴が空き、そこに引火して全焼した」、と……膨張と収縮でモノが壊れていくのは、寒冷地あるあるなのか?
意外にもスノモービルは僕の力でも横倒しにできるほど軽く(大型バイクくらい?)、ただスノーモービル内の燃料も多くなくて、じわじわ傾けるも45度以上に傾斜、大体60度くらいで「そのまま保持しろ!」と、水筒のカップに受けて電動ドリルに注油。
潤滑オイルも以下同様に……ということで写真を撮っている余裕もなく、ただただ疲弊。
「あぁ、辛いけど、懐かしいわこの感じ」
なんとかフィーリングでガソリンとオイルを混ぜるも、割合がまずいのか回転にパワーが出ず、2人がかりで押し付けてなんとか穴が貫通。
しかし魚からの反応は無し、移動を決意。
ガソリン臭い魔法瓶のカップで熱いお茶すすって竿から、ちょっと目を離した隙に……またも不穏な気配。
「ミスター、ちょっと待って、この縛り方は不味いかと……解いて、カバーの上に縛っていい?」
鉄製の電動ドリルと共にゴム紐でぐるぐる巻にされ、牽引するソリに積まれた我がディアモンスター。
「ノープロブレム、Don’t argue me(オレに意見するな)」
きっと、近場に、ゆっくり移動してくれるんだろう。
狙うは1mを超える巨大魚、確実に獲りたい……そう思い、組んだのは「海外でテストするまではリリースしない!」と温めてきたMX-6Pro(MX-6+の強化版)と、MX-∞∞(∞のショート&硬化版)の貴重なプロト2本……。
「あぁ、きっと終わったわ(汗)」
ゴツゴツした氷原を、広大な汽水湖の対岸までブッ飛ばし、さぁソリのカバーを開けてみれば、全くノープロブレムじゃない、超プロブレムな、無惨な状態に。
「アイム、メカニック。アイキャンフィックス!」とオヤジ。
いや、流石に無理だと思うよ……。
皆さんも、ことロッドの扱いに関しては、(多少気まずい空気になっても)日本人の意見を押し通した方がいいと思います。
「くっそ~、コロナの2年間で、感覚が鈍ってた!自己主張レベルを海外基準に戻さないと!」
どうぞ、僕(とMX-6ProとMX-∞∞の亡骸)を反面教師に。
ディアモンの中でも、相当強い部類の2本ですら、このザマなので……。
「まぁ、弱気になるなと。MX-39でやり抜けってメッセージだろ?」
エスキモー氏による人災を、そうポジティブに解釈した僕。
また苦労しつつも穴を開け、そこにルアーを落とし込めば、繊細なティップに違和感が……。
「よっしゃ、北極圏初フィッシュ!!」
現地でブルヘッドと呼ばれるカジカ。
本命ではなく、後に嫌になる程釣れるゲストフィッシュなのだけれど、色々あった後だったので、嬉しかったな~。
ルアーは、昨年夏、ガンクラフトの平岩社長から直々にもらったジョインテッドクロー・シフト183の“氷魚”カラー。
「再び海外に行けるようになったその時には……」とコロナ禍の日本で練り上げてきた、ビッグベイトの釣り。
何より、カラー名(氷魚:ひうお)に、縁を感じて。
「これが釣れる、ではなく、これで釣りたい……最初で最後の最初の1匹を、最高の1匹にするっ!」
しかし目指す怪魚と思わしきアタリは無し、移動。
おそらくはオヤジ(基本、鉄砲の人かと。釣りの経験値はそこまででもなさそう)も迷走し、半ば闇雲にスノーモービルを走らせていると思われた、そのとき!
「カラス!?北極にもカラスがいるのか?」
地平線(数キロメートル先)に、黒い点々が……逆光で黒く見えるだけかもしれないが、明らかに鳥だかりができているではないか!
急行すれば、遠目に黒く見えたのは、やはりカラスだった。
そして予想通り、そこには先人の痕跡が……それもまだ、新しい。
アイスピックで薄氷を破り、オヤジが我先に投入。
すぐ反応があったようだ。
僕も、自撮り用の三脚にスマホをセットし、後に続く……程なく、ガツン!!
「キッターッ!!」
バットから絞り込まれるMX-39、慎重なファイトの末、穴から上がってきたのは……デカーっ!!
1m、10kg以上に成長する淡水(~汽水)魚を“怪魚”と呼ぶならば、再始動の旅のターゲットは、未だ見ぬソイツでありたかった!!
「久しぶりに言うぞ……『君の名は?』笑」(続く)