もう何も話すことはなかった。
旅がおれを離さなかった。
10年ぶりの南米アマゾン一人旅。
学生の頃と違うのは「釣り旅」を仕事にしたこと。
働いているテレビ局で企画を通して、撮れ高がよければ番組にすることになった。
出演・撮影・構成・営業:ぜんぶ自分。
肩書はプロヂューサー。
スポンサーも自分で集めた。
バカバカしい提案を面白がってくれて、いくつかの大企業が応援を約束してくれた。
テレビ局に就職したのも、大学2年生の時に小塚さんが出た『情熱大陸』を見たからだった。
テレビは人をヒーローに出来る。
でも、『情熱大陸』に出るのは無理そうなので、自分を主人公にする番組を作ろうと思った。
大学を卒業するにあたり、フリーターで釣り旅を続けるか、就職するかは少し悩んだ。
全てを捨てて夢を追うヒロイズムにも惹かれたが、考えたら捨てられる何かなんて一つも持っていなかったので、「怪社員」を目指そうと思って就職した。
勉強なんて全くしてこなかった自分にとってはまさに「他界か戦いか」の日々。
最初に配属された部署では、生き死にの現場で必死にカメラと構成を学んだ。
異動した部署ではゲロにまみれてお金の稼ぎ方を身につけた。
釣り旅には「熱量」が必要だと思う。
釣れるかどうかよりも、シンプルで熱すぎる「行けるかどうか」の自問自答。
出国した時点で勝ち。
そんな想いでこれまで旅をしてきた。

2013年 南米・ベネズエラ。
ピライーバの生息地を求めてベネズエラには3回行った。

2014年 アフリカ・ウガンダ。
思えば、持ってないものすら失えたのが若さだった。

2015年、ISISが台頭していた頃のイランにて。
「死ぬかもしれない。」
そんな焦燥感が軽やかに旅を加速させていく。

2016年コンゴ共和国。
雇った船は出発と同時に沈没した。
……全ての旅は繋がっている。
だから、日本で過ごした10年は長い乗り継ぎ期間でしかなくて、釣り旅からの呼びかけは「ぜんぶ捨ててこい」ではなくて、「ぜんぶ持ってこい」だった。
今回目指すのはスリナム共和国。
狙い2mを超えるアマゾン最大のナマズ「ピライーバ」。
早速、川沿いの町に移動して聞き込みを開始した。
スリナムではピライーバを「ラウラウ」と呼ぶ。
暇そうな人たちに拙い英語で「ラウラウを釣るために日本からやって来た」と話しかけると、どこからともなく「おれが連れて行ってやる」という人間が現れる。
それが南米だ。
結論から言うと、このアタックは失敗に終わった。
雇った漁師もポイントを理解しておらず、ガソリンが足りなくなったために途中で街に帰ることになったが、撮影的にはOKだったので良しとしよう。

アマゾンの景色に息を呑む。

唯一の釣果はラウラウに似たナマズ一匹だけ。
似たようなナマズがアマゾン全土にいて、毎回僕たちを騙して心を削ってくる。

蚊を防ぐために濡れた靴下を履き続けたら大変なことになった。
塹壕足というらしい。
……首都に戻って釣具屋を訪ねた。
店員の友達が釣りガイドをしているので紹介してもらえることになった。
5日後に3日間案内してもらえるということで話がついた。
少し時間に余裕ができたので、上流域を放浪することにした。
移動した町で目に飛び込んできたのは「北陸自動車学校」の文字。
地球の裏側を走る地元の車に胸が熱くなった。

漁師の溜まり場はハッピーな煙で充満していた。
日本での犯罪が彼らの日常だった。
彼らは自分を「ラスタマン」と名乗った。
常識は簡単に裏返る。
面白いものに巻き込まれる直感があったので、あえて彼らと交渉し、川の上流に向かうことになった。

命溢れるアマゾンの日々。

ハッパでハイになっている彼らに連れられて夜の狩りに出かける。
気が変われば撃ち殺されるかもしれない。
緊張と興奮が入り混じる。
暗闇に発砲音が響いて、巨大な動物が横たわった。

仕留めたバクは漁師たちの収入になった(スリナムは南米で唯一、バクの狩猟が認められる期間がある)。
彼らと別れて、ぼくはこの旅最後の釣りに出掛けた。
街に戻るのはスリナム出国の昼。
フライトの3時間前。
過去最高熱量で挑む旅。
こうなることを誰かと約束していた気がした。

空の色が変わる頃にアタリがあった。
「ここがクライマックスだろ。」
ようやく待ち合わせに間に合った。

「全部これでよかった。」
そう思わせてくれる魚が怪魚。
明け方の空を見つめた。
自分が今この瞬間にここにいるという明確な実感に泣いた。
日本に帰って番組は放送された。
視聴率は裏番組のレコード大賞に負けた。
「Mrs. GREEN APPLE」司会のレコード大賞にぼくの番組一本槍で突撃させてくれた全てのオトナに感謝します。
ぼくは自由のためにサラリーマンを続ける。
何度でも釣り旅に出ようとし続ける。
走り出せなくなったとき、そこがゴールであればいい。
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