こんにちは、テスターの菅野です!
今回は2019年に行ったラオスの渓谷、単独開拓行の釣行記風レポートです。
旅の成り行きで行ったとても短い山行でしたが、刺激的で今後の方向性を見つけたそんな旅でした。
当時開発中であった「HT-6/7」を自身で初めて海外テストを行った旅でもあります。
時は2019年11月末、ベトナムから長距離バスを乗り継ぎ国境を越えるとラオスの小さな田舎町に辿り着きました。
僕はベトナム滞在中に思いついたとある計画を実行すべく早速準備を始めます。
帰り道なんてわからない、最悪死ぬかも知れない、自分で建てた計画に少々ビビりながらも、言葉に出来ないゾクゾクするような感覚に包まれ準備は止まりません。
その計画とはザックリ言うと、まず、目星をつけた無名の川を目指し町から約30キロの山道を越える、川に出たら本流筋に合流するまでの約20キロの区間を数日掛けて単独で釣査しようと言うもの。
しかしこの計画はテキトウ極まりなく、帰り道をまともに考えていなかった。
本流に出れば誰かに会えるかもと言う淡い期待だけを頼りに最悪、町まで筏で降ろうとだけ考えていた。
戻り返すなんて心理的に無理。
遡行する約20キロの区間は完全に人里から離れた無人地帯、要するに怪我や遭難は死に直結する。
それでも“単独”であることに拘ってみた。
寝袋代わりのブルーシートにナタ、最低限の食料を買い込み、寂れた商店街で自転車を買った。
翌日午前3時、念の為に友人である辻テスターに今回の詳細ルートを送り、「○日までに連絡がなければ、察してくれ」とメッセージを入れ、約30キロの道なりを自転車で進み始めた。
静かな暗い町をヒソヒソと8000円ほどの自転車で抜けてゆく。
1時間ほど進んだ時だろうか、「ヴゥゥゥヴゥゥ!!」と言う鈍い音を聞いた瞬間背筋が凍った、
反射的に僕は全力で逃げ、後ろを振り向くと複数匹の野犬の群れが僕を全力で追いかけている。
ふくらはぎの後ろを生暖かい息が当たるのがわかる、近い!
自分の全勢力を足に注ぎ8000円の自転車に命を預け無我夢中で漕ぐといつの間にか犬は消えていた……。
朝日が登る頃、道は未舗装路に変わり少しずつ勾配が出てきた。
目的の川は山を一つ越えなければならない。
さらに進むといよいよ自転車を漕ぐ事ができないほどに傾斜の山道に変わった。
行動開始から6時間以上飲まず食わずの為、低血糖に陥り、ここにきて力が入らなくなり立ち眩みが激しい。
もう動けない、と思っていると村人が捨てたであろうゴミが目に入った。
パイナップルの食べかけだった……。
体は飢え乾き喉から手が出るほど水分と栄養素を欲していたが、道端のゴミを食い漁るのはナニカだめな気がして躊躇った。
とはいえ、体はとても正直でいつの間にかザックと自転車をぶん投げ、僕はゴミを貪り食っていた。
エネルギーと引き換えに人としてのナニカを失った気がしたがとても元気になった。
行動開始から約7時間、ようやく山を越えここからは一気に下る。
気分はダウンヒル!
オフロードをマウンテンバイクで1時間ほど下るとようやく目的の川に辿り着いた!
自転車の役目はここまで、通りかかった村人に自転車を授け僕は川を歩き始めた。
夕方が迫っていたので2~3キロ進んだところで初日はテントを張って休むことにした。
2日目の朝、大きな岩に登り進む方向を眺めると、川は想像以上に険しく、渓流から渓谷と言う言葉に置き換わった。
ロッドを片手に慎重に遡行を開始。
テンポ良く目星しい個所を撃ちながら、同時に渓の脱出を進める。
時折岩壁に阻まれ、急瀬を渡ったり、フリーで壁に取り付き植物の蔦を頼りに越えたりもした。
壁にしがみ付き一歩一歩集中しながら難所を超えてゆく。
10キロのバックパックを背負い真っ逆さまに滑落すると思うとゾッとした。
そんな箇所は数知れず。
これまでの旅とは異なり自分自身で自分の命を管理すると言うのは非常に緊張感があった。
しかし一向に魚からのコンタクトは無く、一日中歩き続け夕方に水溜りのような場所で小型のスネークヘッドがで2匹釣れただけだった(「チタラ(オリジナル)」にて)。
16時頃には焚き火を始めテントを貼り釣った魚と食料を食べ二日目を終えた。
3日目、ようやく魚からの反応が出始めたが何故かノらない。
さらに進むと川が大きく蛇行し見るからに一級ポイント。
対岸の深みを「チタラMAX」で探る、答えは早い!
ガツン!と竿に重みが乗った。
糸の先に何がいるかわからないこのドキドキ感は、新鮮でかつ懐かしさがある。
慎重に寄せると50cmは優にあるブルーマシールだ!
歓喜した瞬間、足元で反転しポロッとルアーが外れるのが見えた。
「うわぁぁぁ!!」という悲鳴が谷に響き残った水面の波紋を見つめ膝から崩れ落ちた。
この時ばかりは本気で泣きたくなった。
感情を無にして足を進める。
計算上この日の内に地理的到達点の本流との合流点に着くはずと踏んでいた。
先の場所から数百メートル進むと同じような一級ポイントに出会した。
これは出る、ルアーは同じく「チタラMAX」。
やはり1投で答えは出た!
ガツン!と「HT-6/7」が絞り込まれ期待が高まる。
慎重に寄せ姿を見せたのは、良型のカスープ!
<タックル>
ロッド・「HT-6/7 」
リール・スピードマスター200
ライン・ワイルドエイトPE4号、リーダー50lb
ルアー・「チタラMAX」
過去にタイで釣った事があったけれど、この1匹は格別に嬉しい1匹だった。
さらにもう1匹を追加して感情を取り戻した僕は、竿を畳んでいよいよこの渓谷からの脱出をすべく足を早めた。
本流に出たところで帰れる保証はない、筏を作るか?それとも誰かが通りかかるまで待つか?様々な不安が過ぎる。
地図を見ると次の川のカーブを曲がれば本流に出る。
残り数百メートル、不安で押し潰されそうになりながら最後のカーブを曲がり切った。
見えた!本流だ!
「ゴゴゴゴゴッ!!」という数日ぶりの文明の音。
なんと言うタイミング、本流に出たまさにその時目の前を一隻のボートが通りかかった!
僕は荷物を放り投げて激走し手を振ってボートを止めて帰路を勝ち取った。
暗くなったため河原で一泊し、翌朝ボートに乗せてもらい無事生還。
船で急流を降るとすぐに地図には無かった広大なダムに変わり、筏や歩きなんて到底無理なこともわかった。
もしこの船が来ていなかったら、もし数分でも遅れていたら、僕はどうなっていたのだろうか?
誰に頼まれたわけでもない開拓は釣果的観点からすると貧果で終わり、帰路を意識しすぎて足速になってしまったのが少し後悔。
ただ、この短い山行には釣果以上に僕が求めていたものが全て詰まっていた。
釣れるかも分からぬ海外での(真に)開拓という心理的葛藤と、自分で自分の命を管理する“単独”の面白さは、今後の僕の旅の方向性をはっきり示してくれた。
……近日、数年ぶりに釣旅を計画しており、次回も単独での開拓行を構想中。
現地人やガイドを雇えばそれは極地法。
真に怪魚を求めるなら、僕はアルパインスタイルで頂(怪魚)を踏みたい。